半導体・リチウムイオン電池に不可欠な銅 各国が「石油の次に」 と権益確保に走るワケ
岡部理事からの情報です。
日本では10円硬貨の素材としてもおなじみの銅。紀元前8800年より前に人類が最初に利用した金属と言われ、古代メソポタミア文明では紀元前4000年ごろには工具や容器、装身具などに用いられていた。18世紀の産業革命や電気時代の到来、様々なデジタル機器の登場を経て需要は増大、電気自動車の部品にも欠かせず、今後も脱炭素社会や情報化社会の実現の鍵を握る重要鉱物だ。今回は、「石油の次は銅だ」と各国が権益確保に奔走する背景や銅鉱石の低品位化、採掘コストの増加といった課題、安定供給確保に向けた日本企業の取り組みを紹介する。
導電性の高さや加工のしやすさで重用
銅の最大の特徴は、銀に次ぐ導電性の高さだ。さらに、よく延びる「延性」と薄く広がる「展性」を兼ね備え、加工がしやすい。こうした優れた特性を持つ銅は、例えば電力分野では送電線や屋内配線に、通信分野ではケーブルに、電子機器では半導体のリードフレームなどに多用されている。エアコンや冷蔵庫の熱交換器にも熱伝導性の高さから使われている。地球温暖化防止の観点では、電気自動車や風力発電のモーターやリチウムイオン電池などにも欠かせない。自動車1台あたりの銅の使用量は、電気自動車では83kgと、ガソリン車(23kg)の3.6倍。ハイブリッド車でも40kgで、ガソリン車の1.7倍になるという。
<銅の主な用途>

需給と価格動向
銅は、アルミニウムや亜鉛などと並んで埋蔵量や産出量が多い非鉄金属だが、将来、需要が供給を大きく上回る可能性がある。ある予測では、2035年時点の銅の需要量は2020年の2倍に達する一方で、供給量は1.6倍にとどまり、年間1000万トンの不足が生じると見込まれている。また、近年、銅の価格は右肩上がりの傾向だ。需給が逼迫し、価格も高まれば、データセンターの設置や電動車の普及、再生可能エネルギー導入のための送電線設置などに支障が生じ、GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に影響が出る可能性がある。
<銅の需給見込み(左)と価格の推移>

厳しさが増す銅鉱山開発
需給逼迫が見込まれる背景に、銅鉱山の開発が年々、難しくなっていることが挙げられる。大規模銅山の新規発見が減少しており、埋蔵量は既存の鉱山における新たな鉱脈の発見以外、ほとんど増えていない状況だ。また、開発費用も高騰しており、近年に生産を開始した銅鉱山の初期開発費は、2000年以前と比べると2~3倍の水準になるという。
<銅鉱山の生産開始年と初期開発費用>

出典:S&P Global
また、鉱石中に含まれる目的の金属の含有率を「品位」と呼び、銅の場合は一般的に鉱石当たりの百分率で表すが、例えば、世界最大の銅生産国であるチリの銅鉱石の品位は、高品位部の採掘終了により下落傾向にある。品位と資源量のバランスの観点では、コンゴ、ザンビアにまたがるカッパーベルトと呼ばれる銅山地帯があるアフリカ、チリと隣接するアルゼンチンやペルーが今後の産出国として有望視される。しかし、これらの国々では政治情勢などでのリスクも指摘されている。
<国別未開発銅鉱床の資源量と平均品位>

資源の分野では「石油の次は銅が重要になる」と考えている国も多く、権益確保の動きが世界で強まっている。中国の企業がコンゴやセルビアで鉱山拡張に投資したり、ボツワナで銅山を買収したりしているほか、サウジアラビアの企業は国際的なベースメタル事業会社ヴァーレ・ベースメタルズの株式を取得。また、UAE(アラブ首長国連邦)の企業はザンビアの銅山開発に投資している。米国は、重要原材料に銅を追加し、インフレ削減法(IRA)の税額控除施策の対象としている。
日本も民間企業を資金面などで支援
政府の第7次エネルギー基本計画によると、銅などのベースメタルでは、2030年時点で自給率80%以上を目指すとしている。この目標達成に向けて、政府は、銅鉱石の品位が高く中長期的な事業拡大が見込まれる開発案件などへの日本企業の参加を促進する。具体的には、権益の取得を後押しし、銅の権益量確保や供給源の多角化に向けた取り組みを進める方針だ。
<日本の銅地金需要予測(左)と安定確保のための政策の方向性>

需要予測は、JOGMEC-IEEJ 令和4年度カーボンニュートラル実現に向けた鉱物資源需給調査のデータ及び総合資源エネルギー調査会第43 回基本政策分科会で示されたRITEによる発電電力推計を踏まえた参考値を活用してJOGMECが推計
2024年度の補正予算で経済産業省は、銅やレアメタルについて、新規供給源の早期確保を含めたサプライチェーンの多角化と供給安定化を図ることを目的にした「鉱物サプライチェーン多角化・安定化事業」を創設した。政府保証付借入を含め約1600億円の事業規模で、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じた民間企業への出資などを支援する。これにより、銅の権益量の確保や供給源の多角化を図る。経産省製造産業局鉱物課の小林直貴課長補佐は、「リスクが高い国や地域での日本企業の取り組みを、長期的な視点で支援していきたい」と話す。
日本企業の銅権益確保の取り組み…住友金属鉱山の例
住友金属鉱山(本社・東京)はそのルーツを、1590年に京都で始まった、住友グループの源流事業である銅製錬事業に持つ。現在は、鉱山の開発・運営を行う「資源事業」、採掘した鉱物資源から金属素材を生み出す「製錬事業」、その素材に新たな付加価値をつけて提供する「材料事業」を柱に、非鉄金属の安定供給に努めている。
資源事業は1691年の別子銅山(愛媛県新居浜市)開坑を機に始まった。同銅山の閉山などを見据え、1961年にカナダ・ブリティッシュコロンビア州のベスレヘム銅鉱山への投融資買鉱契約を締結したのが、今に続く海外鉱山への参画と権益取得の足がかりになったという。現在、銅では、米アリゾナ州のモレンシー銅鉱山やオーストラリア・ニューサウスウェールズ州のノースパークス鉱山、ペルー・アレキパ州のセロ・ベルデ銅鉱山など、海外6鉱山で権益を持つ。

米アリゾナ州のモレンシー銅鉱山(住友金属鉱山提供)
同社は、権益を持つ海外鉱山などで生産された銅精鉱を、愛媛県西条市と新居浜市にまたがる東予工場に運び、銅以外の不純物を除去して品位99.99%の電気銅に製錬している。別子銅山跡の近くにあるこの工場は、銅精鉱を燃やして溶かす自熔炉が単一の製錬所としては世界最大級の電気銅の生産能力を誇り、生産管理技術や、リサイクルを含めた環境保全技術でも世界トップレベルにあるという。同社は年間45万トンの銅地金の生産能力を有しているが、さらに能力を増強し、年間46万トンを生産する体制の構築を進めている。

電気銅を製錬する東予工場(住友金属鉱山提供)
<電気銅の製造工程 >

(住友金属鉱山提供)
統計によると、銅製錬量のシェアでは、コストが安いなどの理由で中国が50%近くを占めるが、住友金属鉱山が日本国内で製錬施設を持つことには、「国内ユーザーへ高品質な銅を安定提供する」「使用済みの銅スクラップを回収し国外への流出を防止する」など大きな意味がある。また、電気銅の生産効率が高く、環境への配慮もなされている製錬所を持っていることは、鉱山開発・運営のパートナーとなる海外の資源メジャーやジュニアにとっても魅力的だ。住友金属鉱山経営企画部管理グループリーダーの渡辺淳也さんは「これまで培ってきた実績や信頼、競争力があるからこそ、我々がパートナーに選ばれる面もあるのではないか」と語る。

住友金属鉱山の銅事業を説明する経営企画部管理グループリーダーの渡辺さん(右)と金属事業本部事業室技術グループマネージャーの小林純一さん
住友金属鉱山は2025年5月、資源メジャーのリオティント社(本社:ロンドン)と、同社が保有するオーストラリア・西オーストラリア州の「Winu(ウィヌ)銅・金プロジェクト」の権益のうち、30%を住友金属鉱山が取得する契約に合意した。このプロジェクトは2024年末時点で鉱量 7 億4100万トン、銅量約300万トン(銅品位0.40%)、金量約250トン(金品位0.33g/t)の資源量が確認されているという。合意では、住友金属鉱山は、2025年中に参入費1億9500万米ドルを支払うほか、将来、鉱石処理量の増産に向けて拡張工事が行われる場合は、最大で2億3540万米ドルの参入費を払うとされた。リオティント社とは2000年から10年以上、ノースパークス鉱山を共同経営していたことなどで良好な関係を築いており、住友金属鉱山は「銅権益の拡充に大きく貢献すると期待している」としている。
(経済産業省に対するお問い合わせ)
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/honsyo03/meti_toiawase

